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朝から部屋の掃除。汗をかいたので昼食には塩分が欲しいところ。
肌着を着けずに木綿の単衣に袖を通し、塩気の多い稲庭素麺の束を手にする。
生の麺をかじってみると、素麺とは思えない塩辛さ。この麺を湯がくと実に繊細な味に変身するから不思議。麺匠は当然のことながら、湯がいた後の味の加減を計算して塩分を調整しているはず。
当たり前のことだけど、その当たり前のウラには、数多の失敗と職人の苦心が刻まれている。
こういう手作りの職人芸を前にするときには、麺匠の苦心と先達の遺産に心を寄せながら「いただきます」とご挨拶したい。
私はこれから稲庭素麺300有余年の歴史をいただくのである。
さて、麺を湯がく。まるで衣を脱ぐ乙女のような、湯の中での麺の変化を、鍋の前で楽しむ。
立ち上る水蒸気が熱いが、この麺の美しさの前に汗を拭うことも忘れてしまう。
白い粉を吹いた細い麺が、青みがかった瑞々しい透明な色になったらすかさず麺を掬い上げ、水に通してヌメりを取る。稲庭素麺は油を使わない素麺だから、他の麺ほどヌメりはない。
ということは、麺が水を吸いやすいということでもある。麺がふやけてしまったら元も子もない。
これは麺を湯がくときにも注意したい。長く湯がくと失敗するかも知れない。
麺にとっての大敵は、ふやけたり伸びたりすること。
他の素麺の時よりも、かなりあっさり水通しを済ませ、よく水を切って皿に盛り付ける。
秋田美人・稲庭素麺の登場である。
つゆは市販の素麺つゆ。少しばかり薄めて使う。特に醤油の辛さの加減には注意してもらいたい。
ネギや薬味や海苔はあくまでダシの味付けに使う。大衆食堂で機械麺を食べるときのように、テンコ盛りのネギや海苔はいらない。麺を食べてるのかネギや海苔を食べてるのか分からなくなる。
美味しい麺をいただく時は、麺とつゆのハーモニーだけでも十分に楽しめるものだ。
最初はネギも薬味も、本当に物足りないほどに少ししか入れなくて良い。
そうめんつゆの単調な味を補うための、つゆの脇役として使う。
足らないな、と思ってから自分で足せば良い。過剰サービスお断り。
割箸。秋田杉の割箸をさくっと割って素麺を食べる。麗しき白糸の素麺、歯ざわりも滑らかに食が進む。
普通の素麺は最初食べやすく、徐々に胃にもたれてくる思いのほか腹にこたえる食べ物だが、稲庭素麺はどんどん食が進む。これが油を使わない効果なのか。胃には優しい食べ物である。
だが、稲庭素麺は小麦粉と塩だけで作られた食物。健康食品ではあるがカロリーも塩分も当然高め。
腹八分目で箸を置き、風鈴の音に耳を傾けつつ団扇を弄びながら。ああ美味しかったと佇む食後のひと時。
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