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2006年6月2006年7月2006年8月2006年9月2006年10月2006年11月 | 2006年12月

12月某日(晴) 休肝日の柑橘系 〜かぼす麺〜
 急に冷え込んでくると、道行く人々にもコート姿が目立つ。和服も羽織に和装コートなどをキチンと着る。冬場に和服は寒いでしょう、などと言われるが、そんなことはない。洋服の重ね着は上着を重ねる文化だからどうしても下半身が疎かになるが、和服の重ね着は、中の着物を着込む文化だから暖かいだけでなく襟元のオシャレにもなる。おまけに構造上、ロングコートを何枚も身にまとうようなものだから、上半身と同じくらい下半身も暖かい。少々寒いのは女性なら身八ツ口のすきま風、男性なら袖口となるが、女性の方はともかく、男性は袖から腕を抜いて、着物の中で腕組みするような無作法な格好も粋に見えるこの季節、冬だからこそ和服を着たい今日この頃である。

 すっかり鍋物の季節になったが、鍋も佳境を迎えてから開けられる麺にはそうめんよりもうどんこそが相応しいのは論を待たない。鍋のダシの旨みを楽しむ目的にそうめんを使うな勿体ない。という気になるからである。ええい。そうめんを偏愛するゆえの戯言として聞き流してくだされい。

 それにしても連日の鍋である。年の暮れの追い込みの渦中の会食、法事に納会に忘年会、連日連夜、鍋・鍋・鍋、そして酒・酒・酒。この後、年が明ければ正月に発会に新年会、またもや鍋・鍋・鍋、酒・酒・酒である。そして晴れ着や和装の機会も増える。どれほど日程を組んでも似たような鍋を何度か食べねばなるまいし、同じ着物を着なければならない。だから家でくつろぐひと時には、胃腸肝臓を慰めるためにも、綿の着物を何枚も重ね着して、一菜一汁の慎ましい食事が却って旨いし健康にも良い。そこでとき卵の澄まし汁で食べる、にゅうめんの登場と相成る。

 とき卵の澄まし汁は、各地方・各家庭の特徴がある。とにかく味噌を使わない、ポン酢や酸味のある調味料を控えるところが今日のポイントか。平々凡々と作った少し薄味のとき卵汁に、大分のかぼす麺を湯がいて入れて、煮麺(にゅうめん)にする。かぼす麺は大分特産の柑橘類かぼすを練り込んだそうめんだ。ほのかに香る柚とも蜜柑ともつかない柑橘系特有の香りが嬉しい。注意深く麺を食べると口の中に広がるささやかな酸味が楽しい。これが実に思ったほどクセのない、それでいてかぼすの個性が良く出た逸品である。平凡なとき卵汁に「かぼす麺」の個性を加えて、お漬物と白御飯をよく噛んで頂く。よく噛むことが今日の奥義か。良質の食材というものは噛めば味が多層に渡って深まるものである。

 もちろん酒なんて飲まない。酒は食事を選ぶ。今夜の主役は酒ではない。慎ましい和食に似合うのはやはり熱い緑茶。袖の袂を片手で押さえ、ズズッと一口すするのが精一杯な熱いお茶がいい。一菜一汁、お茶に御飯の清貧を思わせる食事も、暖房を止めて、コタツに足を入れて「あったまるねぇ」などと言いながら食べると、豪勢な具材が勢ぞろいした鍋物に負けずとも劣らない贅沢を健康的に味わえるものなのだ。何よりかぼす麺のアクセントのおかげである。汗をかいても平気な着物を着て、湯気に汗かきながら食材の美味を探索する。このような食事の夜を、名づけて「休肝日」と、言う。
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